コロナ禍で挑んだFIFAクラブワールドカップ Qatar 2020 vol.01
数々の国際試合が中止や延期になる中、1年以上のブランクを経て海外での撮影に挑みました。
世界の舞台で戦うことの重要さ、そしてコロナ禍だからこそ得た教訓をエピソードとしてご紹介します。
海外で撮影できない1年間
新型コロナの感染拡大により、2019年12月に開催されたFIFAクラブワールドカップ2019を最後に海外での撮影がなくなりました。また2020年は自国で開催されるオリンピック撮影を目指していましたが、それも叶わず、2020年一年間の予定が空白となってしまったのです。
私としては、2020年は休みなしで撮影の仕事はもちろん、メディア出演やボランティア活動などもおこない、自身の活動内容を幅広く伝えていく予定でした。
しかしそれらが全て白紙になったのです。世の中から必要とされていないことを認識し、自暴自棄になったこともありました。
そのような状況の中、ご縁があって中学野球や少年サッカーなどの撮影依頼をいただきました。いつものように選手たちを撮り続けましたが、自身の強みである「選手の一瞬を切り取る能力」は確実に退化していました。そのことを顕著に実感したのは、2020年11月に甲子園球場でおこなわれた藤川球児選手の引退試合です。
どうしてもボールがリリースされる瞬間が合わせられない・・・
それは私の中でどうしても許すことができないものでした。自身の退化は一体どこまで進行しているのか・・・。
そんな時、追い討ちをかけるようにワールドカップの延期が決まりました。撮影できないことによるフラストレーションは最高潮にまで達していましたが、その反面ホッとしている自分もいました。だってどう考えても世界で戦える態勢にはなっていませんでしたから。
今は準備期間だと考えるようにしましたが、だからといって撮影練習ができる環境はどこにもありません。正直何をどうすれば良いかわからないままでした。
2021年1月初旬、FIFAから連絡があり、2月に延期されたFIFAクラブワールドカップの撮影許可はカタールメディアのみを予定しているといわれました。その連絡を聞いた時、私は一体いつになれば海外での撮影がおこなえるのか、ずっと出口のない長いトンネルの中にいるような絶望感でいっぱいになりました。
しかしマネージャーを含めたスタッフがFIFAとやり取りしてくれた結果、1月20日にFIFAから正式に撮影許可が下りたのです。
もう腹を括る以外の選択肢はありませんでした。
「ワールドカップで調整する」
「初戦から決勝まで8戦撮影をおこなう」
いざカタールへ向けて出国
当時カタール政府は国民および永住権を所有しているもの以外の入国を一時ストップしていました。そのため、カタールに入国するにはカタール政府に特別入国申請をおこない、承認される必要があったのです。
FIFAからカタール政府へ事前に私の入国許可をもらうための手続きをしてもらった上で、VISA発給とEEP(Exceptional Entry Permit 特別入国許可書)の発給申請をおこなうこととなりました。
カタール入国後は7日間の隔離生活が待っています。当初、入国許可日と隔離期間を合わせると、2月1日の開幕戦には間に合わないことが確定していました。しかし出場予定だったオセアニア代表のオークランドシティー(ニュージーランド)がコロナウイルスの影響で参加を辞退。そのため1回戦がなくなり、2回戦がある4日に開幕が変更されたのです。
1月26日までに日本を出国すれば、2月4日の開幕には間に合う・・・。
結果、特別入国許可が出たのは日本時間25日の夕方5時で、そこからすぐに飛行機とホテルをマネージャーが手配、無事に出国できました。
実は申請手続きから出国までの間にホテルと飛行機を手配し直しています。なぜなら、入国許可申請書に搭乗予定の飛行機と滞在予定のホテルを記入する必要があり、最初に手配した飛行機とホテルでは入国許可の発給が間に合わないとカタール政府に言われてしまったからです。
さらにカタール政府が推薦するホテルは予約後のキャンセルや変更は不可。そのため最初に予約したホテルと手配し直したホテルの2施設で宿泊費が発生してしまいました。
正直、飛行機代も含め今回の遠征でかかる費用を考えるとそう易々とは行けません。
それでも私はこのFIFAクラブワールドカップを撮影する意味は十分にあると考えていました。
なぜならカタールへの入国を許されたカメラマンがそんなにいるとは思えなかったですし、何より自分の復帰戦がこの大会でできるなら、お金ではなく経験を選びたいと思ったのです。また入国と撮影許可が下りたことは、少なくとも私の存在は認められていて、そして必要とされている何よりの証拠だと思えたから。
まだ世界で求められている事に感謝しつつ、世界中でこの大会を取材したかった海外メディアの方々の意思や思いも背負って撮影しなければならないと、思いを新たにしました。
さて、カタールに入国後、ここから始まるカタール政府がおこなっているコロナ対策に私は驚かされることになります。
カタールに到着後、まずは飛行機から私専用のバスでPCR検査をおこなう空港内の病院へ。
完全防護している方々に出迎えられ、カタールの携帯シムを購入するよう指示されました。そして同時にコロナ追跡アプリのダウンロードと登録をさせられたのです。
病院内に移動すると、次はPCR検査。終了後は再び私専用バスに乗って空港の外で待っているホテルの送迎車まで移動し、そのまま乗り換えてホテルに向かいました。
カタール政府が用意してくれたホテルは5つ星ホテルでしたが、正面玄関ではなく地下駐車場にある裏口から通されました。そして客室フロアまで直結の専用エレベーターに乗るよう促されたのです。
フロアに到着すると、ホテルに滞在しているドクターから体調や服用している薬を聞かれ、メディカルチェックを受診。その後、自分の部屋に案内されました。なんと飛行機からここまでの流れで、一般市民とは全く接触しなかったのです。
そして部屋の中でドクターから一言。
「1週間この部屋から一歩も出ないでください」
ここから私の隔離生活が始まりました。