コロナ禍で挑んだFIFAクラブワールドカップ Qatar 2020 vol.02
結果を先に述べると、1週間の隔離生活はある2つのツールのおかげで部屋に1人きりといった感じもなく、むしろ私にとって良い時間を過ごせていました。その2つのツールというのが、音声配信アプリのstand.fmと当時爆発的に流行ったclubhouseです。
stand.fmでは隔離期間中毎日、自身のチャンネルである「KONAKAMURA WORLD」を通して世界中にいるアスリートやスポーツに関わる人々との対談を生配信しました。
clubhouseは3日目の夜に本格的に開始。はじめに招待されたルームは各セクションのプロフェッショナルと女優さんがいらっしゃるところで、気がつけば開始から6時間も経過していたほど盛り上がりました。日本時間で夜の23時から朝の6時頃まで、プロフェッショナルな話をみんなでできたことはお金には変えられない貴重な時間でした。
この日以降、clubhouseを通してサッカー選手や雑誌編集者、記者、カメラマン、サポーターといったサッカーに関わる方々と連日連夜、サッカーについて熱く語り続けました。ときには24時間のルームを作り、20時間話し続ける日もあったほどです。
おそらくこの2つのツールがなければ、私の隔離生活は苦痛でしかなく、1週間同じメニューの食事とPCR検査と多少のSNS更新のみで終わっていたことでしょう。
そんな私の隔離生活は2月3日のお昼過ぎに終了。開幕戦がおこなわれる前日のことでした。
1週間お世話になったドクター、そして部屋の担当に挨拶をし、専用車でスタジアムへと向かいました。
いよいよ世界が注目する大舞台が幕を開けます。
撮影初日、ブランクを埋めるまで
今大会は各試合カメラマンは20人まで、1日に2試合ある場合はどちらか一方の試合のみの撮影しか許されませんでした。つまりFIFAクラブワールドカップを撮影できるカメラマンは最大40人で、必ずしも自身が希望する試合を撮影できるとは限らなかったのです。
準決勝と5位決定戦は同じ日に予定されており、5位決定戦の撮影に振り分けられたカメラマンはもう一つの準決勝や決勝の撮影に選ばれる可能性は低いと予想されました。
準決勝と決勝を撮影できるかどうかは、開幕戦の撮影次第。
絶対に落とせないと思うと体が震えてきました。なぜなら国際試合は2019年のクラブワールドカップ以来で、この鈍りきった腕でどこまで世界と勝負できるかは全く分からず、自信も持てなかったからです。
2021年2月4日、FIFAクラブワールドカップ Qatar 2020 開幕戦。
1年1ヶ月ぶりの国際試合は最高の舞台でした。ただ、すぐに自分の感覚が想像以上に鈍っていることに気付かされました。
競り合いでヘディングを撮影する時にタイミングが合わなかったり、選手が仕掛けるフェイントに振り回されたりしたのです。やはり世界のトップ選手となると、スピード、キレ、ボールの伸びなどが予想以上でした。
自身の真骨頂である「一瞬を切り撮る」ことを一旦控え無難な写真を撮り始めましたが、手応えのある一枚を撮影できずに前半が終了しました。
ハーフタイム中、stand.fmの「部室」ルームでライブトークをおこなったのですが、日本時間では夜中だったのにもかかわらず、毎回私のstand.fmチャンネルを聞いてくださっていた方々がコメントをくれたのです。
そのコメントに勇気をもらい、後半は攻めていこうと決めました。前半と同じままで終わらせてしまえば次の試合にも影響が出てきますし、準決勝の撮影権もますます分からなくなると思ったからです。
後半は流し撮りなど撮影にバリエーションと緩急をつけてみました。結局、調子が出てきたのは後半30分すぎで、手応えをつかみ始めた頃に試合は終了。
1年1ヶ月ぶりの撮影は私にとって不完全燃焼の試合となってしまいました。
ところが翌日、なんとFIFAから南米チャンピオンのパルメイラスが試合する準決勝の撮影許可が下りたのです。正直ホッとしましたが、不完全燃焼だった開幕戦の課題やパルメイラスの準決勝、さらに翌日におこなわれるヨーロッパチャンピオン、バイエルン・ミュンヘンの試合を撮影できるFIFA選定の20人に入るための対策など、やることは盛り沢山でした。
準決勝では、決勝で撮影することを念頭に各選手のプレースタイルにアジャストしていくことだけを考えました。自身の撮影したい意思をしっかりと持ち、枚数ではなく質を追い求め続けた結果、試合終了後にバイエルン・ミュンヘンが出場する準決勝の撮影権をつかむことができたのです。
しかし翌日。
準決勝が始まると、気持ちとシャッターのタイミングが全く合わず、なによりバイエルン・ミュンヘンのパススピードとシュートのタイミングについていくことができません。少なくとも前半20分はバイエルン・ミュンヘンに私自身、何も撮影させてもらえない状態だったのです。ただただ撮らされている撮影が続き、本来撮りたい写真は全く撮ることができませんでした。
それが30分頃から急に選手と撮影感覚がアジャストしてきて、キーパーのパンチングのタイミングやヘディングのタイミング、シュートのタイミングなどほぼ完璧な状態で合うようになったのです。
この瞬間、1年1ヶ月ぶりのブランクを埋めたように感じました。連射を使わずに1枚1枚を狙って撮っているため、選手との息が一度合えば面白いように撮れることも同時に思い出させてもらっていました。