Episode 02

コロナ禍で挑んだFIFAクラブワールドカップ Qatar 2020 vol.03

コロナ禍で挑んだFIFAクラブワールドカップ Qatar 2020 vol.03
決勝戦の会場となったエデュケーション・シティ・スタジアム
勝ち取った決勝での撮影権

「最高の状態で準決勝を終えられた」
もし決勝戦のカメラマンに選ばれなくとも後悔はないと思える撮影でした。とはいえ、選ばれるか選ばれないかはすごく気にしながら迎えた翌9日の夕方。

決勝戦の選抜20人に選ばれた

この瞬間すべてのプレッシャーと緊張、そしてイライラがぶっ飛び「ここからは決勝を楽しもう」と気持ちを切り替えました。
ところが、決勝前日である2月10日に大問題が起こったのです。
今大会では各試合前にPCR検査を受け、検査済みであることを示すステッカーを貼ってもらう必要がありました。しかし10日の検査場には誰もいなかったのです。
PCR検査のレギュレーションには10日の19時までは毎日検査を実施していると明記されていたのにもかかわらず・・・。

「決勝前日はPCR検査を実施していない」

状況が飲み込めず、そしてどうすればいいかもわからず、在カタール日本大使館に電話して調べてもらいました。その結果、8日と9日が決勝のPCR検査日で、前日である10日はやっていないとのこと。
さらに検査を受けていなければ選抜20人に選ばれていても、スタジアム内に入場することはできないと言われてしまったのです。
その時は地獄を見た思いで、慌てて日本の所属事務所の社長とマネージャーにも電話しました。
しかしふと、大使館の方の言葉を思い出したのです。「8日と9日に決勝のPCR検査を実施した」ということを・・・!

試合前に行われたPCR検査会場

実は8日におこなわれたバイエルン・ミュンヘンの試合当日の朝、私はPCR検査を受けていたのです。
もしかしたらこれが有効なのではないか。藁にもすがる思いで再び大使館に連絡し、決勝のPCR検査終了後にもらえるステッカーの色を確認してもらいました。すると準決勝当日にもらった紫色のステッカーだと判明。その瞬間、私は無事に決勝も撮影できることが確定したのでした。

今だから話せますが、準決勝あたりから精神的にも体力的にも追い込まれていました。初めて撮影することが怖くなりましたし、できれば試合がきて欲しくないとさえ思っていました。
なぜなら、今大会は毎試合カメラマンがふるいにかけられるプレッシャーがあったからです。さらに密を避けるために1人でカタールへ来ていたため、撮影だけに集中できる環境下では決してありませんでした。PCR検査での問題も含め、英語が話せない私にとっては常にストレスがかかっている状態だったのです。
それでも私はワールドカップの決勝を撮影しに来ているため、準決勝で大会を去るわけにはいきませんでした。そしてなにより、世界中から選ばれてこの大会に来ている40名のカメラマンに負けたくはないという強い気持ちもあったのです。

バイエルン・ミュンヘンのレロイ・サネ選手

そして迎えた決勝当日。

この日は3位決定戦も同会場でおこなわれたため、2試合連続で撮影することができました。
結果的には3位決定戦から決勝の前半まで120分以上得点のない、非常にカメラマン泣かせの展開でした。しかしその瞬間はいつ訪れるかわかりませんし、得点だけが試合を象徴するシーンだとも限りません。そのため常に気を張りながら撮影し続けました。

最終的に後半59分にバイエルンのDFパバールがこぼれ球を押し込んだのが決勝点に。
大会終了後、緊張の糸が切れた私を大会中ずっと運転してくれていたネパール人のカイトが労ってくれました。そのまますぐにスタジアムを後にし、最初にカタールに来た時からお世話になり続けている友人のレストランまで車を走らせてもらい、オーナーに食事をご馳走になりました。

午前2時過ぎにホテルに戻り就寝。翌日はカタールに来て初めて10時過ぎまで寝ていました。
隔離期間中を含め、ほぼ毎日目覚ましをかけなくても6時から7時までには目を覚ましていたので、ここで初めて自分がプレッシャーから解放されたと同時に、蓄積された疲れがどれだけだったのかを理解しました。

COVID Good Bye

決勝戦を1-0で勝利し、クラブチームの世界トップとなったバイエルン・ミュンヘンの選手たち

今大会で一番感じたことは、コロナ過であろうともスポーツイベントがおこなわれている限り、世界中のトップカメラマンは常に見られ続けているということです。
このSNS時代において、活動しているカメラマンと活動していないカメラマンの差は調べればすぐにわかってしまいます。だからこそ我々スポーツカメラマンは、いつ呼ばれても撮影に行ける準備と対策をしておかなければなりません。
そのことを肌で感じたからこそ、私は決勝に間に合うように自分のホームページをリニューアルし、各言語にも対応して自身の活動内容がわかるようにしました。
何でもコロナのせいにするのは簡単です。しかしそんな中でも活動しているカメラマンは世界中にいます。本当に必要とされるカメラマンならば入国だってさせてもらえます。ただ、それも準備と行動を起こしていなければ何も始まることはなかったでしょう。

2021年は6月に全米オープンゴルフ、7月東京オリンピック、8月FIFAビーチサッカーワールドカップロシア大会、9月にFIFAフットサルワールドカップリトアニア大会、12月はFIFAクラブワールドカップ日本大会と国際試合が目白押しです。
まだまだコロナの影響で海外へ行くこと自体が簡単ではありませんが、私のことをもっと広く知ってもらい、多くの国際大会からオファーが来るよう精進していきたいと思っています。
そしてなにより、スポーツに打ち込む選手達の輝く瞬間を切り取り、自身の作品を通して選手達の活躍を後押ししたいと思っています。